Persuasion【説得学】

Yes! アメリカで60年以上にもわたって研究されてきた学問である「説得学」。その分野の第一人者であるロバート・チャルディーニが主著者の”Yes!”をテキストにして、毎日のコミュニケーションの中で相手のためになる行動、考え方を促進する次のようなことを学びます。

  • 好ましい方向に相手を上手に導いてあげるための方法
  • 相手に気持ちよく”YES”を言ってもらうための6つの原則
  • 自分が望ましくない方向に説得されないための知識
  • 職場・家庭などでコミュニケーションを改善するための具体的事例

特別講師プロフィール

inomatasan猪俣潤(いのまたじゅん)
1972年横浜生まれ。明治学院大学経済学部卒業。大手進学予備校講師、高校教師を務めた後、渡米。ウエスタンケンタッキー大学にて修士号取得。専攻はリーダーシップ論。現在は、米国現地法人自動車関連メーカーにて、マネージメントアナリストとして活躍中。

2009/1/8(木)Yes!はじめに

僕の大学院の専攻は、リーダーシップでした。

そこでは、多くのMBAや心理学のクラスと共に、
コミュニケーションのクラスも参加しました。

日本では、コミュニケーション学がそれほど発達しているとは思えませんが、
アメリカでコミュニケーション学といえば人気のあるプログラムの一つです。

アメリカ大統領選のニュースで見た方も多いと思われますが
日本の政治家とアメリカの政治家のスピーチは、ぜんぜん違う。

だから、アメリカの文献やインターネットなどの情報を通じて学ぶことで
日本人のコミュニケーション能力は、
飛躍的に伸びる可能性を秘めています。

今月からアメリカの説得学で有名な先生が書いた
Yes!というテキストを使って
よりよいコミュニケーションの方法について学んでいきましょう。

僕は、日本では教師でした。

教壇立っていて、
「どうして生徒は分かってくれないんだろう?」
と悩んだのは、1度や2度の事ではありません。

その時、この本に出会っていていたら、
僕の悩みはもっと解消されていたと思います。

2009/1/9(金)今じゃなくて、後で電話?(1)

僕の仕事に一つに、購買という
ものを買う仕事があります。

会社が円滑に運営されるように、
必要なものを必要なだけ、
必要な時に出来る限り安い金額で
購入することが仕事です。

だから、毎日あちこちの会社へ電話したり、
ホームページ上で在庫の有無、納期と価格を確認しています。

かつて、ある会社のホームページを見ていたら
「電話が混んでいますので、後で電話してください。」
とメッセージがありました。

この時、僕は少し焦りました。

なぜなら、やばい、売り切れるかもしれないと思ったから。

つまり、他の多くの人がそれを欲しがっている。

僕の頭の中では、自動的にそれが安くて高品質だから、
みんなに人気がある。うー、買いたいと考えました。

だから、焦りました。

2009/1/10(土)今じゃなくて、後で電話?(2)

さて、Yesの第一章に

”If operator are busy, please call again.” (p10)

とあります。

“担当オペレーターが電話をお待ちしています”から、
”後ほど電話をお掛け直しください”に
メッセージを変えたら、売上げが飛躍的に伸びたそうです。

これは、「Social Proof(社会的証明)」
という効果なんです。

” People are uncertain about a course of action, they tend to look outside themselves and to other people around them to guide their decisions and actions. ” (p10)

つまり、まだ買おうか買うまいか迷っているとき、
人は他人の行動を見て、
その意思決定や行動に従ってしまうことが多いということ。

僕もそうでしたが、他の多くの人がそれを欲しがっていると考えたとき
それを安心して、買うことができるんですね。
だから、欲しいと思う。

僕らは、知らず知らずのうちに他人の行動を見ながら、
同じような行動を取る事で安心していることが多いのかもしれません。

テレビの視聴率ランキングが気になったり、
本のベストセラーに注目がいくのも
Social Proof(社会的証明)に関係あることでしょう。

2009/1/12(月)あるホテルでの実験例(1)

ホテルでは、2泊以上連泊するお客さんに対して
同じタオルの再利用をお願いしているところがあります。

ホテルはどのようにお客さんにお願いすれば
より多くのお客さんが
タオルを再利用してくれるようになるのでしょうか?

あるホテルで実験が行われました。

実験では2種類の「お知らせ」を客室に設置して
タオルの再利用を呼びかけました。

【1】It asked the guests to help nature by participating in the program. (P. 12)

一つ目は、お客さんに
「環境保護にご協力ください。」
と呼びかけたもの。

【2】A second sign that the majority of guests at the hotel
recycled their towels at least once during the course of their stay. (P. 12)

そして、二つ目は、
「ほとんどのお客様にタオルの再利用のご協力を頂いております。」
というものでした。

どちらがどのくらい効果があったのでしょうか?

答えは次回!

2009/1/13(火)あるホテルでの実験例(2)

著者はホテルで2泊以上滞在するお客さんに
タオルの再利用をお願いする呼びかけを
2種類用意して効果を比較しました。

【1】は「環境保護にご協力ください」
というメッセージ。

【2】は「ほとんどのお客さんがタオルを再利用している」
というメッセージ。

どちらが効果があったと思いますか?

答えは・・・

【2】の「ほとんどのお客様に〜」が
【1】の「環境保護に〜」よりも
26%タオルを再利用したお客さんが多かった。

なぜなのでしょう?

【2】は、「Social Proof(社会的証明)」
を生かした方法なんですね。

「みんながタオルを再利用しているんですよ」
というメッセージで、
タオルの再利用率が上がりました。

人にお願いをするときは、
「多くの人が〜」とか、「みんなが〜」といった
「Social Proof(社会的証明)」を一言加える。

これだけでお願いを聞いてもらえる可能性が、
グーンとUPするのです。

2009/1/16(金)
「社会的証明」 – 僕の実践例(1)

さて話は代わって、僕の仕事で最近起こったある出来事を
紹介したいと思います。

僕はアメリカの会社でアメリカ人と一緒に働いていて、
楽しいこともたくさんのですが、、、、
同じように、苦労することもたくさんあります。

そのうちの一つは、
アメリカ人に仕事をお願いすることです。

アメリカの会社では、
日本の会社以上に専門性が問われます。

例えば、雇用契約の際には
Job Descriptionという職務規定にサインするのですが、
そこには自分がどんな仕事をするのかということが
事細かに書かれています。

各自の仕事の範囲、責任の範囲が
はっきりと決められているのです。

だから、アメリカ人はちょうど部署と部署の間にあるような
境界線上の仕事をすることを極端に嫌がります。

その仕事をお願いすると、
それは「それは私の仕事じゃない!」
と拒否されることもしばしばです。

こういう状況に僕も何度も出会い、
困ったことがたびたびありました。

そんな、アメリカ人にどうしたら
お願いを受け入れてもらえるのでしょうか?

2009/1/17(土)「社会的証明」 – 僕の実践例(2)

仕事を依頼する
「これ、お願いします。」
の一言に対して
「それは、私の仕事の契約に入っていない。」
という人までいます。

そんなアメリカ人に対して
どう話をするのか?

お願いが成功した場合がありました。

それは、販売部のJohn(仮名)に
ある仕事をお願いしたときでした。

「購買部の僕では、それを調べるのに
僕の部署のコンピューターからは直接アクセスできなんだよね。
だから、IT部にプログラムを設定し直して貰う必要がある。
これには、最低2日の手間が掛かるんだ。
手伝ってもらえないかな。」
John
「そうなんだ。でも、それは僕のJob Descriptionにはないことだし、
第一、部署が違う。僕の仕事じゃないよ。2日くらいなら問題なく待てるよね。」
「・・・(困ったなー。)」

そこで、僕はこんな説明をしました。

「今アメリカの多くの会社では、
従業員同士、お互いの仕事を分け合ってする
ワークシェアリングをしているよね。 不況の今、
これまでの部署間の垣根を取り払って
業務の効率化を進めるんだ。
だから、この不況下においては
うちも他社同様にこれをしていかないと
業務効率を上げることは難しいよね。」

はじめは仕事の依頼に対して
すごく嫌な顔をしていたJohnも諦めたのか、
仕事を引き受けてくれました。

このJohnとのやりとりをしたときには気づきませんでしたが、
僕も「社会的証明」を自然と応用していたのです。

「アメリカの多くの会社では〜」
という例を提示したことで、
お願いを受け入れてもらえたのですね。

2009/1/21(水)チップはどのくらい?(1)

“Yes!” のChapter11には
チップの話が出てきます。

チップは日本人にはあまりなじみがないですから、
旅行先で戸惑ったという人もいるかもしれません。

通常、アメリカでは請求書の金額の
10〜15%くらいをチップとして払います。

例えば、10ドル分の食事をしたら、2ドルくらい。
人によっては、1ドルという人もいますが、、、

ただし、チップは、あくまでも規定料金ではありません。

つまり、10〜15%というのは目安に過ぎないのです。

金額を決定づけるものは、
サービスを受けた人の気持ちです。

例えば、食事が出てくるまで1時間も待たされたとか
ウエイターが、ぺらぺら喋っていてうるさかった。
この様なときは、別に払う必要はないのです。

逆に、料理がとってもおいしかった。
ウエーターや、ウエートレスのサービスに心から満足した。

この場合、極端なことを言って、
10ドルの食事をした時に
さらに10ドルのチップを払ってもいいのです。

2009/1/22(木)チップはどのくらい?(2)

さて、みなさんは、
アメリカのウエーターやウエートレスの時給をご存知ですか?

お店にもよりますが、
おそらく州政府で定められた最低賃金
(5ドル50セント=495円程)くらいの人が多いでしょう。

決して多い時給ではないですね。

だから、彼らにとって、
チップは無くてはならないものなのです。

では、ウエーターやウエートレスはどうすれば、
チップを増やすことが出来るのでしょうか?

てきぱきと料理も運ぶことも大切でしょう。
おすすめ料理を説明するとか、
笑顔で話しかけるということも必要かもしれません。

“Yes!”には、とてもおもしろい実験が載っています。

次回からその実験をみていきましょう。

2009/1/23(金)チップを増やす方法(1)

日本でも焼肉屋など、
にんにく料理を扱うお店には
レジのところにミントのガムが置いてあったりしますね。

アメリカでもガムやキャンディをくれるところがあるのですが、
日本と違うのはウエーターやウエートレスが、会計の際に
お客さんに持ってきてくれたりすることです。

あなたがレストランで
ちょっとニオイの気になる食事をしたとします。

食事が終わってウエーターが伝票といっしょに
口直しのミントキャンディを持ってきました。

ちょっとしたことですが、
うれしい心遣いという感じがしますよね。

実際に調査してみると、

The researchers found a modest increase in tips-not a huge one,
just 3.3 percent. (P.54)

キャンディを渡さなかった時よりも
会計時に1個キャンディを渡したほうが
3.3%チップが上がるという結果になりました。

そして、さらに、、、

The food servers gave two candies to each dinner at the table
and tips rose by 14.1 percent. (P.54)

キャンディを2個あげたら、
何も渡さなかったときよりも14.1%まで上がりました。

キャンディを1個多くあげるだけで
チップが4倍以上になったなんてすごいですね。

キャンディを1つ余計にもらうことで
お客さんは普通とは違うちょっと特別なサービスを
受けた気持ちになるということでしょう。

これだけでもすごいのですが、
さらにさらに、もっとチップを上げる方法があるんです。

その方法とは一体どんなことでしょうか?

2009/1/26(月)チップを増やす方法(2)

レストランでの食事のあと、
ウエーターやウエートレスが伝票といっしょに
お客さんに口直しのミントキャンディをあげることで
チップが上がったという調査。

1個だと33%、
2個だと14.1%アップしました。

さて、もっとチップを上げるには
どんなことをしたらいいのでしょうか?

3個あげる?
いえ、違います。

Reached into a pocket, and places a second piece of candy
on the table each dinner. (P.54)

最も効果的な方法は、
はじめの1個は普通に渡し、その後・・・
「もう1個のキャンディを自分のポケットから直接取り出して、お客へ手渡した」
ということでした。

これだけで、23%アップしたそうです。
すごい。

なぜこんなに効果があったのでしょうか?

その理由は次の3つです。

(1) お客さんは重要感を感じたから
(2) 予想していなかったうれしいサプライズだったから
(3)特別扱いしてくれたと感じたから

人はパーソナルな対応をしてもらったとき
うれしいと感じます。

そして、このチップが上がった例のように
ちょっとしたことで相手を喜ばせ、
ひいては自分にとってもうれしいことが
起こせるんですね。

これは応用する価値がありそうです。

・・・・・・・・・・

余談ですが、
僕が実際にレストランに行って、面白いなと思ったのが
僕に日本語で話しかけてくれる人がいたことでした。

アメリカ人のお姉さんが、
いきなり片言の日本語で ”Kon Ni Ti Wa”。

始めはびっくりですが、
やっぱり日本語で話しかけてくれたら嬉しいですよね。

また、別の時には、
チエック(請求書)に手書きで
“Thank you and see you again!”
などと書いてくれる人もいました。

僕のチップがいつもより多かったのは
言うまでもありません。

稼ぐ人は、やはり一工夫ありですね!

次回は
「チップを増やす方法応用編」です。
お楽しみに。

2009/1/27(火)パーソナルな対応を応用してみました。(1)

もちろん人にもよりますが、アメリカ人は、
その日の気分で、態度がコロコロと変わる人が多いように思います。

もちろん、機嫌がよければいいのですが、
機嫌が悪いと一緒に仕事をしていて
なかなか前に進みません。

そうしたことで困っていた僕は
Chapter11のチップの話であった、
「パーソナルな対応」を応用してみました。

僕が一緒に仕事をしているアマンダ(仮称)は気分屋で、
“Good Morning!”と挨拶をしても
不機嫌なときは返事がないこともしょっちゅう。

そして何か仕事を頼んでも
なかなか引き受けてくれなかったり
引き受けてくれても、しぶしぶという感じだったり。

本当に、彼女の態度には困っていました。

(つづく)

2009/1/28(水)パーソナルな対応を応用してみました。(2)

アマンダ(仮称)は、小さい子どもが2人いるため、
なかなか旅行に出かけられません。

でも、学生の頃は、
よくメキシコやカナダまで行っていたそうです。

そして、どうやら彼女の趣味は、
ポストカード集めだという情報を
彼女と仲のいいジュリー(仮称)から聞き出しました。

そこで、僕はニューヨークへ旅行に行ったとき、
彼女のためにポストカードを買ってきてみました。

そしてそのポストカードに旅の思い出を書いて
そっと彼女の机の上に置いておきました。

すると、彼女は大喜び。

「Jun、どうもありがとう。
いいわねー、ニューヨークに行ったの?」

いつもは素っ気無い態度だった彼女が、
にこやかになりました。

そしてその後・・・

僕の仕事は、いつも喜んで
他の人よりも早く仕上げてくれるようになりました。

仕事もスムースになる上、
それほど手間のかからないことで彼女が喜んでくれるで
僕もこれから旅先では彼女にポストカードを
買ってこようと思っています。

やっぱり、パーソナルな対応をされて嫌な人はいませんよね。

みなさんも、人間関係を良くしたいと思ったら
ぜひとも、相手が何をしてもらったら喜ぶかを考えてみて下さい。

今の状況は、きっと変わると思いますよ。

2009/2/4(水)「社会的証明」を使った僕の失敗(1)

僕は、商談などの仕事も含め
アメリカ人とよく食事に出かけます。

食事の席では、
日頃の仕事のことから、家族の話まで、
いろいろなことが話題になります。

先日は、ベンダーのトム(仮称)と
日本食を食べに出かけました。

そこで、彼からこんな悩みを聞きました。

トム
「ジュン、どんなに不景気でも、やっぱりいい人材は足りないよなー。」

「そうか。」

トム
「そうとも。今、営業部のマネージャーがなかなか見つからないんだ。
そこで、部内で一番成績のいいクリスに
マネージャーのオファーを出そうと思うんだ。」
「クリスは、何年目の営業職なの?」
トム:
「まだ若く3年目だよ。でも、とても誠実な性格で固定客が多いんだ。」

そこで僕は

「他の3年選手(若手)では、
ほとんど管理職に就いている人なんていない。
だからこそ、ぜひチャンスに飛びつかないともったいない!
と話を進めてみたらどう?」

と提案しました。

多くの若手ビジネスパーソンは
まだ管理職になりたくてもなれません。

だから、これが大きなチャンスであることを
クリスに伝えるべきだと思いました。

さて、その効果はいかに?

2009/2/5(木)「社会的証明」を使った僕の失敗(2)

さて、その翌日トムに電話をしてみました。

「トム、どうだった?
クリスへの説得は成功したかい?」

僕はてっきり社会的証明を使う事で、
説得がうまくいくと思っていました。

しかし、トムからは意外な答えが返ってきました。

「ジュン、クリスはとても家族思いなんだ。
だから、少しの年俸アップや、責任の重い仕事より、
何より、家族との時間を大切にするんだ。」

そして、驚いたことにトムがクリスに

「3年選手の新人では、
ほとんど誰もが管理職にはなっていない。」

と言った後、クリスが顔を真っ赤にして、
むきになって、こう反論したそうです。

「俺は他の誰よりも、ワイフと子どもが大切なんだ。
だから、他の若手と同様でいい。
お金も、責任も欲しくない。
家族との時間が一番大切なんだ。」

僕の提案は明らかに
逆効果になってしまいました。

では、なぜ僕の提案は
逆効果になってしまったんでしょうか?

この僕の失敗の理由については
“Yes!”を読むとわかるのですが、、、

2009/2/6(金)僕の提案が逆効果だった理由

“Yes!”のChapter3には
アメリカの国立公園の話が出てきます。

この国立公園では、
Petrified Wood(化石化した木:ジュエリーなどに使われる)
という貴重な木があるのですが、
この木を観光客が記念に持ち帰ってしまうので困っていました。

そこで、3つの看板を立てて調査することにしました。

3つの看板はそれぞれ、このようなものでした。

1) Many past visitors have removed the petrified wood from the park. (P.22)
多くの観光客が、公園から木を持ち帰っています。

これは社会的証明を使ったメッセージ。
たくさんの人が持っていってしまっています、と訴えます。

2) Please don’t remove the petrified wood from the park. (P.22)
どうか、公園から木を持ち帰らないでください。

これは普通のお願いですね。

3)木を盗んでいる人の絵に’No’のサインがついたもの

これは言葉ではなく絵のサインです。

090206「Noのサイン」とは、駐車禁止などにもある
このサインのことです。

どの看板が、一番効果があったと思いますか?

2)の「普通のお願い」が1.67%、
3)の「絵のサイン」が2.92%盗まれたのに対して、
1)の「社会的証明」を使ったメッセージでは
なんと7.92%と、2倍以上盗まれてしまいました。

なぜこんな結果になったのでしょうか?

1)のようなメッセージは社会的証明が逆効果となる
Negative Social Proofというものだからだそうです。

みんなが珍しい木を持ち帰っているなら、
自分も持ち帰ってもいいだろうという考えに
させてしまった。

泥棒を減らすどころか
「促進」してしまったのです。

ただ社会的証明(Social Proof)を使えば、
人を説得できるというものではなく、
それが逆効果になる場合もある。

社会的証明は人を説得する上で便利ですが、
そのメッセージが何を促進するのか
その効果を考えることが大事なんですね。

2009/2/13(金)Eメール禁止令

みなさんは、Eメールを使っていますか?

仕事でもプライベートでも
Eメールを使わないという人の方が
少なくなっているのではないでしょうか。

“Yes!”に、
Eメールについて
とても興味深い試みがありました。

Over five thousand employees were told that they were no longer allowed
to communicate with one another via email on Fridays. (P200)

U.S.セルラーという大手携帯電話会社で、
5,000人の社員に対して社員間で
毎週金曜日のEメール使用を禁止にした
というものです。

そんなことをしたら
とても不便が生じるような気がしますよね。

なぜこのようなことをしたのでしょうか?

Electronic communications might actually be hurting teamwork
and overall productivity, not improving it. (P201)

Eメールは、チームワークを乱したり、
生産性を上げることをしていないのではないか
ということなのです。

確かに、Eメールに頼り過ぎることによって、
ミスコミュニケーション(誤解)が生まれる
事があります。

2009/2/15(日)Eメールが生んだミスコミュニケーション(1)

前回
「Eメールはミスコミュニケーションを生む」
という話に関連して
思い出したことがあります。

ある時、購買担当の僕は、
シップメント担当のクリス(仮名)に
Eメールを送りました。

「今日、エア便でアラスカ経由で日本から
パーツAA555が到着するんだ。
これは、今日中に客先H社に
シップメントする必要があるから、頼むよ」

そのメールは、CCでセールスのケリー(仮名)にも入れました。

セールスとシップメントの2人に指示を出したのだから、
これで僕の仕事は終わったと思い込んでいました。

ところが、、、

その翌日、セールス担当のケリーから
「AA555はまだ日本から届いていないの?
客先から、“まだ到着しない”と
かんかんに怒りながら、
クレームの電話が来ているけど。」
とのこと。

よくよく調べてみたら、
ケリーへのメールはなぜか
迷惑メールに自動的に入ってしまっていました。

また、シップメントのクリスは、
これはセールスのケリーの仕事だから
彼女に任せておけばいいと、思い込んでいました。

僕らのミスコミュニケーションのおかげで
重要なパーツが届いていたにもかかわらず、
24時間ほったらかされていたのです。

2009/2/16(月)Eメールが生んだミスコミュニケーション(2)

結局、セールスのケリーが、
すぐに客先に商品を持って謝りにいき
なんとか許してもらう事ができましたが、、、

もちろん、許されないこともあります。

それ以来、僕の中でメールとは、
単なるコミュニケーションの確認(記録)作業をするための
道具とすることにしました。

Eメール主体のコミュニケーションはせずに、
直接会って話をしたり、電話で会話したりするコミュニケーションを補助するもの
という位置づけにしました。

これで、ミスコミュニケーションが減ったことは
言うまでもありません。

やはり、コミュニケーションの基本は
直接、相手に伝えることです。

出来れば、実際に相手の顔を見て、
身振りや手振りを交えて話をしたいものです。

たとえば、
1週間メールを極力使わないとか、
またメールを使っても必ず直接話すこともするとか、
そんなことを試してみたらどうでしょうか?

きっと今までのコミュニケーションに
変化が起きると思いますよ。

2009/2/24(火)人が欲しくなる「理由」

“Yes!”P.141には、
いま、不況により毎日のように話題になる
アメリカ大手自動車メーカーGMの話が出てきます。

In response to the announcement
that the Oldsmobile would soon no longer be available,
sales jumped like never before. Why?

オールズモービル(車名)が、生産を打ち切る、という発表があったとき
突然、売り上げがすごい勢いで上がりました。なぜでしょうか?

The answer lies in the scarcity principle:
People show a greater desire for an object or opportunity when they learn
that it is unique, available in limited quantities,
or obtainable for only a limited time.

その答えは
「scarcity principle=希少性の原則」
の中にある、と言っています。

このGMの車、オールズモービルの場合
生産打ち切り、つまりもうこれからは
買いたくても買えなくなってしまうわけです。

そうすると、
もともと購入しようと思っていた人たちはもちろん、
購入しようかどうしようか
検討していた人たちも買う確率が高くなるでしょうし、
購入を考えていなかった人でも
購入を検討するということも起こってくるかもしれません。

確かに、希少なもの、限定されたものに人は弱いですね。

たとえば、
旅行先で地域限定のお土産をつい買ってしまうとか、
新幹線が、新しいデザインの車両に変わるときに
多くの鉄道ファンが、最後の車両を写真に収めようと集まる、とか、
3日間限定ポイント2倍セールのときにまとめ買いをする、
などなど。

2009/2/26(木)不景気でもできる「希少性」の応用

僕の会社ではいろいろな会社との取引があるのですが、
その中でも1年毎に価格の見直しがある
A社との交渉が先日ありました。

交渉の前には、
今年は不景気だし、
まあ去年と同じくらいの価格だったらまあいいだろう、
そんな雰囲気がありました。

しかし、稀少性のところを読んで
何か仕事に使えることはないかな、
と思っていた僕は、
A社に納める製品に「scarcity(希少性)」
がないかどうかを
調べてみることにしました。

すると、
他社では扱っていない製品があることに
気がつきました。

そこで、A社担当のセールスのケリー(仮名)に
こんな話をしてみました。

「ケリー、次のA社との交渉だけど、
製品BB-6666の価格、思いきって20%くらい上げてみたら?」
ケリー
「この業界の常識は、せいぜい値上げ2%くらいが常識なのよ。
あなたは、セールスを知らないからそういう非常識な数字が言えるのよ。」
「そうかもしれないけど、チャレンジする価値はあると思うよ。
どうしてかと言うと、製品BB-6666は材料が鉄製ではなく、セラミック製なんだ。
これは他社では作れないとても希少価値が高い製品。
だから、その価値をA社に伝えれば多少価格が上がっても
A社は買ってくれると思うんだよね。」
ケリー
「そうなの。そんな価値があるものだなんて知らなかったわ。
私ももう一度勉強しなおして、A社にきちんとその価値を説明してみるわ。」

結局、20%は無理でしたが、
10%アップということで交渉が成立したそうです。

この「「scarcity(希少性)」」に関する試みで僕が気がついたことは、
自分が当たり前と思っていることの中にも
実は希少なものが結構あるということです。

今は、どこも不況で、ほとんどの会社が大変苦しいときです。

新たに研究開発費を予算にいれて、
新製品をつくるなどというのは
時間もかかるし、難しいかもしれません。

しかし、自分の会社の製品やサービスを見直してみる
ということであれば、すぐにできます。

そして、手間は掛かるかもしれませんが、
コストはほとんど掛かりませんよね。

今一度、自社製品について勉強してみるなどして、
自分の会社の「scarcity(希少性)」を検証してみてはいかがでしょうか。

2009/3/13(金)理由の力

“Yes!”のChapter35、151ページには、
コピー機を先に使わせてもらう
実験があります。

順番待ちをしているときに
理由を言うと約94%の人が譲ってくれた
ということです。

When the stranger made the request with a reason,
almost everyone (94 percent) complies. (p.151)

そしてさらに、
こんな実験も。

This time, the stranger also used the word because
but followed it with a completely meaningless reason.(p.151)

meaningless reasonとは意味をなさない理由。
例えば、こんな理由を言ってみるわけです。

”May I use the Xerox machine, because I have to make copies?”

コピーが必要でない人は
コピー機に並ばないはずですが、
こうした一見、意味不明な理由でも、
効果があったようです。

人にお願いする時は、
なにかしら理由を言う。

これだけで、Yesと言ってもらえる確率が
全然変わってくるみたいです。

2009/3/16(月)次の実験は・・・

人にお願いするときには
Becauseではじまる理由を言う。

この実験を僕も自分の仕事で
応用してみることにしました。

どんな時に使おうかなと思っていたとき
お客さんから新規ビジネスが入りました。

納期は、2週間後。

こうした場合、
1週間で事務書類の手続き
(図面の作成、品番の登録、送り状・納品書の作成など)
を済ませないとなりません。

ただ、普通社内中に書類を通す場合、
そう簡単にいかない事が多い。

営業、品質から、社長まで
すべての人のサインを貰う必要があるからです。

それだけでも数日は掛かります。

でも、なるだけ早く手続きを済ませて
お客さんに提出してあげたい。

そこで、手続きにかかる時間が短縮できるかどうか
理由の実験を応用してみることにしました。

この仕事には、品質担当のジョニー(仮名)が関わっていたのですが、
彼と一緒に仕事をすると、
進みが遅いことが結構あって困っていました。

彼は陽気でいいやつなのですが、
その性格が悪いほうに出ると、
仕事をおろそかにしてしまうことがあるのです。

そのジョニーに、今回はあえてmeaningless reason
つまり、「ちゃんとしていない理由」の方で
実験してみることにしました。

客先の納期の話などのまともな理由ではなく
意味がよくわからないような理由を言ってみたのです。

ジョニーは一体どんな反応をするのか?

期待半分、不安半分でしたが
さて、その結果は?

2009/3/18(水)実験結果

実験では
理由をこんなふうに言ってみました。

「僕ら日本人は仕事がたまってくると、
とても落ち着かないんだ。
だから、これは必ず今日中に目を通してからサインをくれよ!」

落ち着かないのはたぶん人間性の問題で、
日本人も、アメリカ人も直接的には関係ないですよね。

よく考えると仕事には関係ない
ちゃんとしていない理由です。

では、ジョニーの対応はというと、、、

なんと!
翌日に書類を回してくれたのです。

たまたま、彼の機嫌がよかったのか?
あるいは、暇だったのか?

でも、陽気もののジョニーが
急いで仕事をしてくれたということは
「ちゃんとしていない理由」でも
効果があったということなんでしょうね。

明確な理由があるときは、
必ず相手に伝える。

これによって、
人は納得する可能性が高まります。

そして、ちゃんとした理由がないときでも。

ないときは、
ないときでも何か理由らしきものを
言ったほうがいいんですね。

「コピーをとりたいので、
先にコピー機を使ってもいいですか?」

こんなことでも、
一言理由として言うだけで、
Yesと言ってもらえる確率が上がるのです。

ぜひ、みなさんも人に何かをお願いするとき、
必ず一言理由を言ってみてください。

これだけで、
かなり効果が違ってくると思いますよ。

2009/3/20(金)理由の力の限界

前回、理由がないときでも
理由らしきものを言った方がいい、
ということを書きました。

これはこれでおもしろいのですが、
何でもいいから「because」を言うということにも
限界があるようです。

そのことがコピー機の2つ目の実験で
説明されています。

1つ目の
94%の人が先にコピー機を使わせてくれた実験では
コピーを5枚とらせてもらうというものでした。

次の実験では20枚と
より大きなお願いになっています。

より大きなお願いになったときに重要になってくるのが
どんな理由を言うのか、
ということです。

本文152ページの下のほうに
「good reason」
という言葉が出てきます。

コピー機の例だと、
「コピーをとりたいので
先にコピー機を使わせてもらえませんか?」
この場合の理由はbad reason。

それに対し、
「急いでいるので先にコピー機を使わせてもらえませんか?」
というような、
ちゃんとした理由がgood reasonです。

より大きなお願いのときには
bad reasonを言った場合はあまり効果がなく、
good reasonを言ったときには、
OKになる確率が高かったとあります。

考えてみれば当たり前のことですが、
より大きなお願いの時には
相手もそのお願いにこたえるのかどうか
よく検討します。

だからお願いするほうも
理由をよりよく考える必要があるのですね。

good reasonとは
相手がきちんと理解できる理由。

相手のためになる理由が言えるといいですね。

ちゃんとしていない理由の実験は興味深いものでしたが、
やはりどんなときでも
good reasonを相手に言ってあげたいものです。

僕もこれからお願いをするときには
必ず理由をつけ、
それが相手にとってよい理由、
good reasonであるかどうか
を考えるようにしようと思います。

2009/3/24(火)人の行動を後押しする方法(1)

日本も同じでしょうが、アメリカも今は、大変な不景気です。

だから、どこの会社も生き残りを掛けた
激しい売り込み合戦が繰り広げられています。

アメリカの国土は、日本の約25倍ありますので、
国内貨物市場は、日本と比べ物にならないくらい大きい。

だから、大手運送会社であるFedexやUPSは、
自社で貨物専用航空機を何台も所有しています。

テネシー州メンフィスFedex本社近くにある飛行場にいくと
これが、運送会社?と思えるくらい、びっくりする規模で
多くの飛行機が発着陸を繰り広げています。

アメリカのビジネスの大きさを感じます。

さて、そのアメリカ国内輸送市場の話です。

毎日のように、僕のところにも電話や
飛び込み営業でひっきりなしに売り込みにきます。

そして、一本の電話が僕の元に入ってきました。

2009/3/26(木)人の行動を後押しする方法(2)

その電話は、運送大手アメリカンシップメント(仮名)の
セールス担当ジェフ(仮名)からでした。

今度始めた、新サービスを
ぜひ紹介させて欲しいとのことでした。

さっそく、シッピング担当のクリス(仮名)と一緒に
ジェフに会ってみることにしました。

ジェフ「 ヘイ、ジュン。今度のサービスはすごいんだ。
指定のBoxを使ってくれたら、
カリフォルニアまで重量2 パウンド(約1キロ)以内で
なんと$10ドルでいいんだ。
更に、このカードを見て欲しい。
荷物を引き取りに来た際に、
担当者がこのカードにスタンプを押すんだ。
そして5個スタンプがたまったら、
6個目の荷物はFree(無料)にさせてもらうよ!」

ジェフはアメリカ人特有?の
自信満々な口調で話し続けました。

僕「 だけど、その重量でカリフォルニアまで$10なら
今使っている、現行のF社とあまり変らない価格だよ!」

ジェフ 「、、、、、、、、、、、、。」

自信満々だったジェフですが、
それから先はトーンダウンでした。

僕は、個人的には
今取引の多い運送会社F社とほぼ同じ価格なので、
アメリカンシップメントではなく、
現行のF社をそのまま利用させてもらおうと考えていました。

ところが、
シップメント担当のクリスの判断は違った。

ジェフの提案した新サービスに該当する貨物に
50%も切り替えていたのです。

なぜでしょうか?

調べてみたところ、、、

秘密は、5個スタンプがたまったら
6個目は無料というカードにありました。

2009/3/28(土)人の行動を後押しする方法(3)

何気なくアメリカンシップメントのジェフから
クリスに渡されたカード。

そこに、秘密があったのです。

5個スタンプがたまったら、
6個目の荷物はFree(無料)になるのですが、
そのカードには、
なんと既に(サービスで)2個スタンプが押してあったのです。

これにより、クリスは使わない手はないと考えたようです。

“Yes!”(P.171)に、
同じようなシチュエーションの実験がありますね。

車の洗車の話ですが、
スタンプを8個集めると一回分無料になります。

実験に使われたスタンプカードは2種類。

1種類目は、
白紙のスタンプ8個分のカード。

2種類目は、
既に2個スタンプが押してある10個分のカード。

2種類とも、同じように8個のスタンプで
1回洗車無料になります。

でも、その結果は、、、

Whereas only 19 percent of customers in the eight stamp group made enough visits to claim
their free car wash, 34 percent of the ten stamp, head start group did.

8個分のカードでは、19%の人のみ
無料洗車のためにカードをスタンプを集めたのに対して
10個分のカードでは、
なんと34%に人がカードをスタンプを集めた。

クリスがなぜ動いたのか、、、
わかりました。

僕らも、これを仕事に応用しない手はありませんよね。

2009/3/29(日)人の行動を後押しする方法(4)

人は何か新しいことを始めることに対して、
すごく抵抗がある。

だけど、だれかが肩をぽんと押してあげる。

そうすると、驚くようにスピードが加速していきます。

たとえば、同僚になにか数字などの情報をもらいたいとき。

ただ、「先月の売り上げ高を教えて。」と言っても、
人はなかなか、動いてくれませんよね。

そこで、先にエクセルなどで簡単な表を作成してあげる。
「あとは数字をそこに埋めるだけなので、頼むね。」

スタンプを5個埋めれば、
1回分サービスですよ。

これだけでは、人は中々動きません。

もし、そのカードに既に
いくつかスタンプが押しあったなら、、、

それだけで、驚くほど人は動く。

この人の行動を後押しする方法は、
いろいろな場面で使えると思いました。

2009/3/30(月)おわりに

僕は、異国の地で多くのアメリカ人に囲まれながら
彼らと共に仕事をしています。

そこで思うことは、
英語はどう努力しても、
彼らのようにはいかないということ。

英語は、残念ながら
1日や2日では進歩しません。

でも、どうEメールを書くかとか、
どう話を進めていくかということは
少し考えるだけで、全然違ってくる。

つまり、”Yes!”にある内容を
少し応用してみることで
相手に対する説得力は、間違いなく変ってきます。

僕ら日本人と全く異なる文化や生活感を持つアメリカ人と
少しでも理解しあえるように、
こういう努力はしているつもりです。

そしてその努力は、
間違いなく実るものであると信じています。

特に、アメリカは
コミュニケーション学の宝庫です。

多くの人が、大統領選の時、
オバマ氏やヒラリー氏の演説を聴いたと思います。

それほど英語が分からない方でも、
あの演説のうまさは伝わったことでしょう。

あれは、まさにアメリカコミュニケーション学の
レベルの高さを物語っていると思います。

少しでもアメリカのコミュニケーション学に興味を持ち
実践的に活用して、
そして人と理解し合える楽しさを感じてくれたなら
これほど嬉しい事はありません。

最後までお付き合い頂きまして、
ありがとうございました。

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